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根管治療

2026/5/20 03:41

2026/5/20

日本の歯の神経の治療、成功率はたった3〜5割!?

なぜ世界の半分以下なのか、わかりやすく解説

歯医者さんで「神経の治療が必要です」と言われたこと、ありますか?

実は、日本の保険でやる神経の治療(根管治療といいます)は、うまくいく確率が3〜5割くらいなんです。10本治療したら、5〜7本は失敗してしまうということ。

一方、世界では同じ治療の成功率は8割を超えています。

「えっ、日本の歯医者さんって下手なの?」と思うかもしれません。でも、違います。本当の原因は、日本の保険制度のしくみにあるんです。

今回は、その理由をできるだけわかりやすく説明します。

1. 日本人はなぜ歯を失うの?

公益財団法人8020推進財団という団体が2018年に調べたデータがあります。日本人が歯を抜かれる原因は、こんな感じです。

- 1位 歯周病:37.1%

- 2位 むし歯:29.2%

- 3位 歯が割れる(破折):17.8%

- その他:15%くらい

注目してほしいのは 3位の「歯が割れる」が17.8% ということ。

ここで疑問。「歯ってそんなに割れるの?外で転んだりしないと割れないんじゃない?」

実は厚生労働省の資料にこう書いてあります。「歯が割れる原因のほとんどは、転んだ衝撃みたいな外からの大きな力ではなく、神経を取った歯が原因」と。

つまりこういう流れです。

むし歯になる → 神経を取る治療をする → 失敗する → やり直し治療 → やり直すたびに歯が削れて弱くなる → 最後は割れて抜歯

神経を取った歯は、生きている歯より弱くなります。さらに、治療を繰り返すと歯がどんどん削られて、もっと弱くなります。だから最後は割れてしまうんです。

つまり、神経の治療の精度が低いと、将来抜く歯が増えてしまう ということ。

2. 日本と世界の差を数字で見る

東京医科歯科大学の須田英明先生が2011年に発表した論文があります。日本で神経の治療をした歯のレントゲンを調べたデータです。

「根の先に炎症(しっかり治っていない印)が残っている割合」を部位別にまとめると…

- 上の前歯:約70%

- 上の奥歯:約65%

- 下の奥歯:約65%

- 親知らず:約70%

どの場所でも、半分以上の歯に炎症が残っている という結果。

ヨーロッパでは、根の先の炎症が消えていなかったら「治療失敗」と判定します。この基準で見ると、日本の神経治療の成功率は 30〜50% しかありません。

一方、海外の研究では…

- Ng先生のチームの研究(2007年):成功率68〜85%

- Burns先生のチームの研究(2022年):成功率82.0%

日本30〜50% vs 世界82%。だいたい2倍の差 があります。

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3. なぜここまで差が出るの?答えは「お金」

一番大きな原因は、保険でもらえる治療費の金額です。

2026年5月時点で、保険診療で神経の治療をしたときの値段はこのくらい。

- 前歯(根が1本):4,750円

- 小臼歯(根が2本):7,330円

- 大臼歯(根が3本以上):7,820円

奥歯1本の神経をまるごと取って、薬を詰める治療の総額が 7,820円。これは10割の金額で、患者さんの実際の窓口負担はもっと安いです(3割なら2,000〜5,000円程度)。

しかも、この金額は20年間ほとんど変わっていません。物の値段も人の給料も上がっているのに、神経の治療費だけずっと据え置き。

ちなみにアメリカの神経治療の専門医が同じ治療をすると、約15〜24万円。日本の25〜30倍 です。

仮に奥歯1本に2時間かけたとすると、7,820円÷2時間=1時間3,900円。ここからアシスタントさんの給料、滅菌するコスト、材料費を引いたら、医院は赤字です。

つまり 黒字にしようと思ったら、1本15〜30分で終わらせるしかない んです。

これは歯医者さん個人の問題ではなく、国の制度の問題 です。

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 4. 本当はどんな治療が必要なの?

世界基準でちゃんと神経の治療をするには、こんな工程が必要です。

 ① CT撮影

普通のレントゲンでは見えない、隠れた根管(MB2と呼ばれます)が、上の奥歯では 約70%の確率で存在 します。これを見落とすと、必ずまた感染します。

② ラバーダム

ゴムのシートで治療する歯だけを囲む処置です。唾液1mlには 1〜10億個の細菌 がいて、これが根の中に入ると即座に感染してしまいます。

ラバーダムを使う割合はこんな感じ。

- 日本の一般歯科:5.4%

- アメリカの専門医:ほぼ100%

- アメリカの一般歯科:44%

 ③ マイクロスコープ

神経が通っている穴の入口は0.5mm以下。肉眼では絶対に見つけられません。20倍に拡大する顕微鏡 で初めて全部の入口が見えます。

④ ニッケルチタンファイル

根の中を掃除する細い器具です。1回使うと金属疲労で折れやすくなるので、海外では 1人の患者さんに1セット使い捨て が標準。ファイル代だけで5,000〜10,000円かかります。

日本では同じファイルを消毒して何回も使うので、途中で折れるリスクがかなり高くなります。

⑤ 薬液で洗う

器具で削るだけでは、根の中の壁の 30〜50%しか触れません。残りは薬液(次亜塩素酸ナトリウムとEDTA)と超音波の振動で攻めます。これに15〜30分かけます。

⑥ すき間なく詰める

根の中を詰める材料で完全にふさぐ工程。根の壁にある小さな穴(象牙細管といいます)を、まずシーラーという薬で埋めます。壁にペンキを塗るようなイメージ。その上でガッターパーチャという材料でフタをします。これで体の中と口の中の通り道を完全に遮断します。

### ⑦ すぐに被せ物をする

神経の治療が成功しても、上に被せる被せ物の精度が悪ければまた菌が入ってきます。神経の治療と被せ物はセットで考える必要があります。

これら①〜⑦を全部ちゃんとやると、1本に合計2〜4時間、何回かの通院が必要 です。

7,820円では、物理的に無理です。

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5. どこで失敗が起きるのか

工程のどれかを省略すると、こんな失敗が起きます。

- CT撮らない → 隠れた根管を見落とす

- ラバーダムしない → 唾液から再感染

- 顕微鏡使わない → 入口を見つけられない

- 洗浄不足 → 細菌が残る

- 詰め方が甘い → すき間から再感染

- 被せ物が遅い → 上から菌が入る

日本の保険治療で成功率が低いのは、歯医者さんの腕の問題ではなく、7,820円ではこれを全部やるのが不可能だから です。

逆に、これを全部やっている日本の自費の神経治療の専門医では、世界基準の 80〜90%の成功率 に到達しています。

 6. 患者さんが知っておくべき3つのポイント

 ① 治療前に確認したい3つの質問

- ラバーダムは使いますか?

- 顕微鏡か拡大鏡(ルーペ)は使いますか?

- 治療は何回くらい、1回どのくらい時間がかかりますか?

これにはっきり答えられる歯医者さんは、神経の治療を真剣にやっています。

ただし、これらをしていなくても、保険診療の範囲内なら歯医者さんを責めることはできません。責めるべき相手は歯医者さんではなく、厚生労働省 です。怒る相手を間違えないことが大切です。

今の解決策は2つ。

- 自費で神経治療をやっている病院を探す

- 専門医への紹介状を書いてもらう

 ② 自費を検討するタイミング

こんな歯は、自費の精密な神経治療を選ぶ価値があります。

- 奥歯(根が複雑で失敗しやすい)

- すでに1回神経の治療が失敗している歯

- 絶対に抜きたくない、長く残したい歯

やり直しの神経治療は、最初の治療より成功率が下がります(厳しい基準で71%程度:Estrela 2022の研究)。

 ③ やり直しより、最初に投資する

やり直し治療は、最初より成功率が下がり、お金も時間もかかります。

最初の神経治療にちゃんと投資することが、結果的に一番節約なるんです 

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7. 最後に

繰り返しますが、これは個別の歯医者さんを責める話ではありません。

保険制度の中で、歯医者さんはみんな最善を尽くしています。

ただ、「制度に構造的な限界がある」という事実を患者さん自身が知った上で選ぶ ことが、自分の歯を守るために大切です。

歯を1本失うと、インプラントで30〜40万円。さらに一生の不便さや、噛む力の低下もついてきます。

最初の神経治療にちゃんと手間とコストをかけることが、長い目で見て一番の節約 になります。

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参考文献

1. 須田英明.わが国における歯内療法の現状と課題.日本歯内療法学会雑誌 2011;32(1):1-10.

1. 公益財団法人8020推進財団.第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書.2018年11月.

1. 葭原明弘.歯の喪失の原因.健康日本21アクション支援システム(厚生労働省).

1. Ng YL, et al. Int Endod J 2007;40(12):921-939.

1. Burns LE, et al. Int Endod J 2022;55(7):714-731.